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 慶応3年(1867年)11月15日、坂本龍馬と中岡慎太郎が京都・近江屋の2階で暗殺されました。その部屋の床の間に掛けてあった掛軸、梅に椿を配した一幅は淡海槐堂(板倉筑前介)の描いたものでした。
 この掛軸は近江屋井口家のものと思われていましたが、意外にもこの暗殺事件の直前、作者の槐堂が直接この部屋を訪れて龍馬に贈ったものだったと、立命館史学会員の西尾秋風氏が『土佐史談』170号(昭和60年、坂本龍馬生誕150年記念特集号)に書いています。
 西尾氏は、槐堂の弟・江馬天江の孫で日本風俗史の大家であった江馬務が発掘して書き残した文章、
 「槐堂と龍馬は常に親交していた様子で、龍馬の横死した夜も槐堂は、龍馬をその河原町の寓居(近江屋)に尋ね、深夜まで時事を談じたが、この夜槐堂は龍馬へ一幅の自画の梅軸を贈り、龍馬は喜んでこれを床の間に掛けて鑑賞した。」
 を引用しています。江馬務が何をもとに断定したかには触れていません。
 槐堂が辞して間もなく刺客が乱入したことになります。通説ではたまたま尋ねて来ていた同志の岡本健三郎が帰ったあと数名の刺客が踏み込んできたことになっていますが、槐堂のことは伝承されていませんし、本人もなぜか沈黙を守っています。
 西尾氏はそこから「槐堂は真犯人を知っていたのではないか」と推理を発展させるのですが……。
          ※
 槐堂が7卿落ちに巨額の資金援助をしたことは前回書きましたが、中岡慎太郎も慶応3年10月11日に300両を借りた覚えが残っています。(好古斎ホームページ)
 天誅組の吉村虎太郎とも親しく、文久3年(1863年)8月の大和義挙に際して500両と小銃30挺を贈っています。
 町奉行にこの援助について訊問を受けた際「盗賊がホクチを買うに決して放火に入用なりとは言うまい。小銃も遊猟のために貸したもので、戦争用に供したのではない」と言い張ったといいます。
 義挙に失敗した虎太郎や那須信吾らの首は大和から京都に送られて埋められましたが、槐堂は牢番に賄賂をつかまして埋めた場所に案内させ、掘り出して霊山に改葬しました。改葬までの間は自宅に預かっていたということです。
 『土佐史談』52号(昭和10年)松村巖「吉村寅太郎」▽67号(昭和14年)同「淡海槐堂」より。
          ※
 槐堂は池田屋事件にもからんでいます。元治元年(1864年)6月5日、京都三条木屋町のこの旅館に潜んでいた長州藩士らを新選組が襲った事件です。土佐藩の野老山吾吉郎(ところやま・ごきちろう)と藤崎八郎はこの事件の犠牲者とされていますが、池田屋に集合していたわけではありません。板倉筑前介を訪ねる途中で新選組との戦いに巻き込まれたのです。重傷を受けて長州藩邸まで逃れたものの傷は深く、27日自ら割腹して19歳の命を散らしました。『土佐史談』188号(平成4年)に門脇鎌久氏が「芸西村の志士の碑」と題して書いています。
 野老山家は女優・栗原小巻の先祖で、20年余り前になりますが墓参のため自分で車を運転して高知(芸西村)に来たことがあります。
          ※
 江戸時代最後の仇討ちといわれた土佐藩士広井磐之助(いわのすけ)の復讐行にも板倉筑前介の名前が登場します。
 父大六の仇・棚橋三郎の消息を求めて国を出た磐之助はまず板倉を頼ります。
 板倉は私費で設けた「並修館」に入れて銃の射撃を習わせるとともに、仇を探るには虚無僧になるのがいいと、近くの明暗寺に世話するなどの援助をします。
 坂本龍馬や軍艦奉行・勝海舟の協力もあって磐之助は文久3年6月2日、紀州領を出たところの泉州山中渓(だに、現阪南市)で、父の死から8年ぶりに念願を遂げることができました。
 前掲松村巖「淡海槐堂」は、磐之助が本懐を遂げたことを報告する、板倉先生様宛6月朔夕付け632字の手紙を収載しています。 此の手紙によりますと、相手は土州生まれ、江戸松と申す者、実は楠太郎倅棚橋三郎と名乗ったので、彼へも刀を渡して勝負したところ、首尾よく報復を果たせたと述べています。 なお、この件について『土佐史談』には31号(昭和5年)寺石正路「廣井磐之助復讐談」▽210号(平成11年)依光貫之「広井磐之助の仇討ちの場所はどこか」などがあり、ことに依光氏は事件名について、それまで言われてきた「中山峠」でなく「中山渓の仇討ち」とするのが一番ふさわしいと提案しています。

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